ukkaニューアルバム『青春小節~音楽紀行~』は至高の一品

ukkaのニューアルバム『青春小節~音楽紀行~』が12月20日に発売されました。もともと楽曲に定評あのあるグループでしたが、上ったハードルを軽々と越えるような作品となっていました。

ukka『青春小節~音楽紀行~』のジャケット写真。https://m.media-amazon.com/images/I/61DBJEq0xcL._AC_SL1080_.jpg

個人的に素晴らしかったと思えたポイントを、いくつかまとめておきたいと思います。

歌詞の有機的なつながり

「青春小節」とは、青春の一場面を切り取り、ukkaが歌とダンスで表現するというコンセプト。そして「音楽紀行」という副題が加わることで、青春の旅路を音楽で描いていく作品という性格が与えられます。つまり、青春と呼ばれる時代を駆け抜け、成長していく足跡を、音楽で描き出すものとなっています。

そのため、「コンセプトアルバム」ほど特定のコンセプトで固められているわけではなくても、アルバムを通して歌詞が有機的に繋がることになります。簡単にそれを見ていきましょう。

we are...

We are... - YouTube

この曲は、これまでovertureとしてライブの冒頭に流れていたものを、弦楽器の重厚感を増す形でリアレンジしたもので、歌詞はありません。

ピアノで静かにはじまり、荘厳になっていく展開を経て、物語への期待感を高めます。

Rising dream

Rising dream - YouTube

ukka「Rising dream」Live映像/スタプラアイドルフェスティバル2023~秋の新曲収穫祭~@横浜アリーナ - YouTube

荘厳な「we are..」から一転して、疾走感の溢れるロックナンバー。「Wake up!」と叩きつける村星りじゅさんの歌声で、物語が起動します。「西廻り航路」や「この星の半分も知らない」という「音楽紀行」とリンクした言葉を使いながら、青春の衝動と未熟さを描き出します。

「大人だとか子供だとか/突然変われるものじゃないんだし」と、はざまで揺れる青春の思いを吐露しながら、夢に向かって進むことへの不安と希望が歌われた楽曲です。

wonder little love

ukka「wonder little love」Music Video - YouTube

今度はややスローテンポで幻想的な楽曲で、初恋が歌われます。「Rising dream」では「これは誰のためのstory 私でしょ」と言い切って他者が出てこない状態でした。思春期の万能感は、他者なしに成立するものです。しかし、青春とは他人と関わり、傷ついたり、支え合ったりするもの。初恋でままならない相手と出会うことで、思春期の世界に他者が出現します。

この曲をきっかけに、アルバムでは他者が登場し、物語全体に陰影を与えることになります。

TAiLWiND

TAiLWiND - YouTube

<ukka>「TAiLWiND」(MUSICGLOBE ~Buzz the World~#8) パフォーマンスパート - YouTube

青春の舞台が変わり、新生活が始まります。高校進学、大学進学、青春ではステージが変わると共に、別れも経験します。「僕らの選んだ道は少し違ったけどね/いつだって味方でいるよ」と別々の道に進んだ「キミ」を応援しながら、自らも新しい青春の物語へと進みます。

カノープス

カノープス - YouTube

日本では南の地平線すれすれに見える「カノープス」という星をテーマとしたバラード。この曲は、遠い街に離れて住むことになった人から、星空の写真*1と共に「元気かな?」という一行メッセージを受け取る場面から始まります。

「TAiLWiND」で別の道を進むことになった「キミ」なのかどうかは判然としませんが、同じように道が別れた人を痛切に思う歌詞となっています。

don`t say Love

don`t say Love - YouTube

昭和歌謡的なメロディに「ハッシュタグ」「情報過多」など現代的な単語が散りばめられた曲。青春における自我の確立の苦闘を、恋愛に揺れる気持ちと共に歌い上げます。

「私は私よ」という言葉が繰り返され、「不確定なカラー 決めつけないで」と他者からのカテゴライズを拒否する様子は、ただ恋に憧れる年代ではなくなり、大人の恋愛に足を踏み入れる様子が窺えます。

序盤の「wonder little love」とは大きく異なる恋愛が歌われており、青春の深化と成長が読み取れます。

コズミック・フロート

ukka「コズミック・フロート」Music Video - YouTube

<ukka>「コズミック・フロート」(MUSICGLOBE ~Buzz the World~#8) パフォーマンスパート - YouTube

EDM調で恋愛の浮遊感を描き出す曲。「君と コズミックフローティング」という歌詞は恋愛で地に足がついていない様子でもあるように思えます。

恋愛の中でも自分らしさを貫こうとする「don`t say Love」と対をなしています。おそらく、恋愛とはその両面があるのでしょう。揺るがされず自分自身を貫きたいという思いと、「君」と共に宇宙まで浮かび上がっていくような高揚感。2曲で恋愛の裏表を描いたと言えます。

ティーンスピリット

ティーンスピリット - YouTube

ukka「ティーンスピリット」Live映像/スタプラアイドルフェスティバル2023~秋の新曲収穫祭~@横浜アリーナ - YouTube

ここで再び疾走感あふれるロックナンバー。しかし、青春の衝動というよりも、現実との苦闘の中で、それでも走り出そうという決意を窺わせる内容となっています。

「夏休みの誰もいない体育館に/勝手に鍵かけた/ここ私だけのステージにします/異論反論(の類は)認めません」という歌い出しで始まりますが、歌の時点でこの出来事が過去であることが、重要です。「イヤフォンからあふれ出すビート/今も連れて行ってくれる/あの体育館の3分間の/ティーンスピリットの匂い」とある通り、体育館の出来事は過去となっています。体育館で歌ったあの曲を聞き返すことを通じて、「異論反論」を認めない万能感にあふれた青春を思い出すストーリーとなっています。

成長し、別れを経験し、現実に揺さぶられることもあった。でも、「Rising dream」で「これは誰のためのstory 私でしょ」と叫んでいたあの頃の気持ちをよりどころに、自分を奮い立たせようとするのです。

現実の圧力によって、ついつい自分を引っ込めてしまう。自分を出さずに、大人しく従えば波風が立たない。そんな状況に慣れてしまいそうになった時に、「踊れ!本当の私/アン・ドゥ・トロワ!/隠れないで出てきて/見せて!最高の私」と高らかに歌い上げ、自己を鼓舞するのです。

スーパーガール★センセーション

ukka「スーパーガール★センセーション」Music Video - YouTube

ukka「スーパーガール★センセーション」Performance Video - YouTube

大人なアレンジで展開するクールな楽曲。現実の中で自分を作り上げようとする中で、改めて自分が「最強 で 最高」と宣言する曲であり、アレンジの妙と表現力でその宣言に説得力をもたせることに成功しています。

無重力」「メロンソーダ」「フロートしてる」といった「コズミック・フロート」を思わせる歌詞が散りばめられているように、地に足が着いた現実的な歌詞ではありません。「リアルを飛び出して」「魔法のステッキ」という言葉が示す通り、ままならない現実と一定の距離を置くことで、自分を「最強 で 最高」と定義できるようになるのです。

Glow-up-Days

Glow-up-Days - YouTube

オール大阪ロケ!オフショット満載!!ukka「Glow-up-Days」なにわ版MV - YouTube

過去を頼りに「本当の自分」「最高の自分」を作り出そうとし、現実といったん距離を置きながら自分を「最強 で 最高」と歌い上げる。そしてこの曲では現実に戻ります。

「胸の痛みをぎゅっと抱きしめて/ありのままを受け入れよう」と現実を受け入れながらも、「継ぎ接ぎだらけの毎日でも/私らしく歩いていこう/不器用な生き方でもいい 今の私が好きだ」と弱い自分を含めて肯定する。青春の旅路を経て、自分の弱いところ、悪いところを含めて、自分のすべてを受け入れながら進むことができるようになったのです。

「本当の私」は弱く、悪い所だってある。でも、それを含めて、自分は「最強で最高」なんだ。そうやって自分を確立していく。こうして、青春の旅路は終わりに向かいます。

つなぐ

つなぐ - YouTube

青春の旅路の最後には、再び別れが待っています。大人になって、自分の道を選択するとき、それぞれの道が別れていくのです。

しかし、自分のすべてを受け入れて「私らしく歩いていく」ようになった私にとって、別れは寂しいものでありながらも、未来をつないでいくものでもあります。「カノープス」では「『サヨナラ』代わりの/『またね』なんて嫌い」と歌われていました。しかし、この曲では「そばにいたいよ/だけどサヨナラ」ときっぱりと言い切りながら、「約束しよう/いつかまた会おう」とも言える境地に達しています。

「未来は柔らかい」という印象的な歌詞が示す通り、道が別れても、未来は繋がるのです。優しい歌声の重なりを通して、未来の柔らかさ、繋がる未来を信じさせてくれる楽曲となっています。

We are... (reprise)

We are... (reprise) - YouTube

冒頭の「We are...」の変奏曲とも言えそうなリプライズ。オルゴール風の音も加わり、侘しさも感じさせるアレンジとなっています。しかし、ラストに鳴るピアノは、冒頭の最初の音でもあります。つまり、最後が冒頭に繋がる構成となっていて、未来が繋がっていくことが示唆されるのです。

以上のように全体が有機的に繋がりながら、青春の旅路が描かれるのです。歌詞の面でも、非常に練られた見事なアルバムと言えるでしょう。

音の良さが心地いい

アルバム全編を聴き続けて感じるのが、音の良さです。

バッキングトラックのよさ

アレンジがかなり凝っているのに、音を重ね過ぎることなく、シンプルな音作りとなっています。主張しすぎず、しかしちゃんと音が鳴っているという、絶妙なラインをつくバッキングトラックは、ukkaの歌声に彩りを加えています。

しかも、シンプルな音作りであるため、ビートの心地好さがストレートに伝わってきます。メロコアスカコア調のロックナンバーや、EDM調のダンスナンバー、昭和歌謡曲風のナンバー、非常に多彩な曲調が集まっていながらも、ビートの心地好さで全体の統一感を味わえるのです。「つなぐ」は歌詞に注目が集まるのは仕方ありませんが*2、バッキングトラックの良さも素晴らしいと感じられます。

曲順の良さ

曲順の良さも特筆に値すべきでしょう。緩急がしっかりしていて、飽きさせない。荘厳な「we are...」から疾走感あふれる「Rising dream」という流れもワクワクさせますし、終盤の入り口に置かれた「ティーンスピリット」の疾走感も、ラストへ向けて物語を加速させます。

前半の締めにあたる5曲目に「カノープス」、最後に「つなぐ」というバラード曲が配置されている構成も、しっかりと必然性が感じられる流れを作っています。

すべての曲が、あるべき場所に置かれ、歌詞を含めて物語を綺麗に形づくっています。

歌の良さ

曲が良くても、バッキングトラックが良くても、曲順が良くても、歌がダメならば、魅力は半減します。

何度かこのブログでも触れていますが、ukka以上に歌唱力が高いメンバーが揃っているグループもたくさんあります。しかし、表現力の高さという点ではukkaはどこにも負けません。それぞれ個性が異なる6つの歌声が、曲が物語る青春の刹那を鮮やかに描き出すのです。

圧倒的な歌力の強さを見せつける川瀬あやめさん、力強さと優美さを兼ね備える村星りじゅさん、優しい歌声で聞き手を包み込む茜空さん、軽やかに歌いながら絶妙なニュアンスで世界を丁寧に描写する芹澤もあさん、器用にさまざまな歌の表情を見せる結城りなさん、低音の強さと高音のエモさが鮮烈な葵るりさん。

豊かな表現力で、音楽紀行というコンセプトが貫徹されるのです。

アルバムならではの傑作

サブスクの時代となり、曲はばら売りされるようになりました。しかし、このアルバムは、アルバムならではの構成の妙があり、通して聴くことによって楽曲の魅力が増幅されるようになっています。

多くの人に、アルバムという形でこの作品が届くことを願っています。

*1:おそらくカノープスが良く見える星空で、日本から離れた土地に住んでいるのでしょう。

*2:リーダーの川瀬あやめ卒業曲という扱いでもあります。