ukka New Style LIVE TOUR2022「MORE!×3」名古屋公演

「ああ、楽しかった」
ukkaの東名阪ツアーファイナル名古屋公演の帰路、私は冷めやらぬ興奮と心地よい余韻に身を任せていた。ukkaのライブはいつも楽しい。でも、ここまで心が湧き立つライブは久しぶりだった。それは、さまざまな重力を振り切り、軽やかに飛び立つ姿に、未来への確信を抱かせるライブだったから。ライブの楽しさだけではなく、これから来る楽しい日々が確かに感じられるからこそ、楽しさがこだまとなっていつまでも余韻として残り続けるのだ。

2021年重力との苦闘

2021年のukkaも素晴らしいパフォーマンスを披露していた。しかし私には、何かを証明することを強いられる1年だったように感じられていた。

2021年6月20日Zepp Tokyo

突然のメンバー脱退に伴う、4人体制への移行。心ない意見がネットで飛び交う中、4人のukkaも最高のukkaであると証明する必要があった。Zeppツアーファイナル、Zepp Tokyoでukkaはとてつもない強度のパフォーマンスでそれを証明してみせた。決して切れることのない張り詰めた集中力、魂の底からの想いをぶつけるような歌とダンス、凄まじいステージであった。新メンバーオーディション開催を発表した時に流したメンバーたちの涙は、自分たちを確かに証明してみせたこと、自らに課した課題を成し遂げた安堵からくるものだったのだろう。

2021年11月23日舞浜アンフィシアター

その後、新メンバーオーディションを経て、結城りなと葵るりが加入。今度は新メンバーを加えても大丈夫だということを証明する必要に迫られた。新体制お披露目ライブとなった舞浜アンフィシアター公演では、それを証明するように、前半ブロックで6人はパフォーマンスで客席を圧倒した。張り詰めたテンションに込められた強い意志。6人に増えて迫力を増したダンスフォーメンション。「ukkaはこの6人でやっていけるんだ」という強力なステイトメントであった。

ただ、新メンバーが引っ込んで4人ブロックが続くなど、新体制がまだ未完成であることも感じさせるライブであった。そして4人のブロックがあまりにも「いつも通りの平均点の高いukka」だったことが、前半の強度の高いパフォーマンスとの落差を生み出していたようにも感じられた。終盤に新メンバー2人が戻ってきても、4人と2人のukkaになっていて、序盤ほどのインパクトを与えるものではなかった。

とはいえ、希望は確かにそこにあった。アンコールで披露された新曲「MORE×3」は、底抜けに明るく楽しいナンバーであった。そしてそれが6人のukkaにとても合っていた。「ukkaといえば、オシャレで高度な楽曲」というイメージを裏切るような、軽やかに心が弾むようなナンバー。しかしそれは、アイドルの楽しさを思い出させてくれるものであった。何かと戦う、何かを証明する、そのためのステージは終わった。まとわりつく重力を振り払い、軽やかに未来へ飛び立つ姿を予感させてくれるものであった。

2022年飛躍へ

2022年に入って、ukkaは積極的に対バンイベントに出演してパフォーマンスを披露していた。正直に言えば、未だに4+2という印象ではあったものの、「ツアーに入ったら大きく変わるのではないか」という期待を抱かせるものであった。

そして4月にukkaは東名阪ツアーを迎える。諸事情により東京と大阪の公演を観ることはできなかったが、SNSなどでは、驚きの声で溢れていた。曰く「結城りなと葵るりの2人が凄かった」。そして「2人のハイパフォーマンスに引っ張られるように、4人も伸び伸びと楽しそうだった」という感想も見ることができた。

ツアーではきっと素晴らしい姿を見せてくれると予感していたが、それが現実になりつつあることに、少しの安堵を覚え、私は翌週の名古屋公演に臨んだのであった。

2022年4月10日名古屋ダイヤモンドホール

暑い日だった。4月とは思えない気温、千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希投手の完全試合達成、さまざまなニュースが日本を熱くしていた。そして、東名阪ツアーファイナルの名古屋公演も、フロアの熱狂を巻き起こすライブであった。

ライブのスタートから、楽しさを爆発させるものだった。ukkaのライブのスタートは、荘厳なOvertureで始まるのが常であったが、このツアーは違った。明るいオープニングSEに合わせて、メンバーが登場。リーダーの川瀬あやめがクラップを求めるなどフロアを煽る中、メンバーがお立ち台を自分で設置していく。ステージを手作りする姿は、メンバーたちが自分たちの秘密基地を作り上げているようにも見えた。フロアも楽しくクラップ、メンバーも楽しそうに親密な空間を構築。そして1曲目は「MORE×3」。楽しさが加速していく。

「MORE×3」から立て続けに披露されたは「エビ・バディ・ワナ・ビー」、「恋、いちばんめ」。どちらも楽しさが前面に出る曲であり、「アイドルは楽しい!」ということを圧倒的な実力で見せつける。最初のブロックで爆発した楽しさは、最後まで衰えることなく、続くことになる。

このライブにおいては、ブロックごとに明確なテーマがあったように感じられた。最初のブロックは明るく楽しいukkaの提示であり、次は聞かせるブロックでその実力を見せつけるものであった。初期曲である「こころ予報」は、表現力の上がった現在のukkaによって、新たに説得力をもって生まれ変わっていた。リンドバーグも大幅にアレンジし直され、ほぼダンスも封印され、ボサノヴァ調でゆったり聞かせる形に変更されていた。リンドバーグに続いて披露された「おねがいよ」も、前半はギターリフのみのストイックなアレンジで、削ることによってシンプルに歌の魅力を伝えるものとなっていた。そして「おねがいよ」の後半で原曲のアレンジに戻ることによって、解放感による凄まじいカタルシスが与えられる構成になっていた。

2ブロック目は、音楽的にも非常にドラマティックなものであったが、別のドラマもあった。それは、メンバーのソロパフォーマンスがあったことである。ミニアルバム「T.O.N.E」収録曲には、発売当時在籍していたメンバー4人のフィーチャー曲があり、特別盤にはソロ曲として収録されていた。これをソロパフォーマンスで歌い継ぐ。そしてフィーチャー曲がない新メンバーは、最後にリード曲の「WINGS」のパフォーマンスを2人で披露したのである。サビを高音で歌い上げなければならない「WINGS」は、歌うのは簡単な曲ではなかったであろう。しかし、結城りなと葵るりの2人は、見事な歌声を響かせて、ukkaの一員としての実力を見せつけることに成功した。もちろん、未だに拙いところもあるだろう。しかし、その歌声は自分の表現を確立しようとする意志に彩られた力強いものであった。2ブロック目のラストに披露された「AM0805の交差点」でも、結城りなは鮮やかに歌い出しを決めて、葵るりも負けじと魂のこもった歌声でフロアの客の心を震わせたのであった。

4+2ではない、1つのukkaであることを見せつけるブロックであったように感じられた。ukkaとはそれぞれが個性的な表現者の集まりである、と私は考えている。新メンバーの2人も、追いつくために必死に覚えるという段階ではなく、1人の独立した表現者としての道を歩き出した、そう確信させるパフォーマンスであった。

本編ラストのブロックでは、明るいけれどもゆったりした曲で余韻を強調する。そしてアンコールでは、ukkaの楽しさを一気に爆発させる。各ブロックの色分けがハッキリした、よく考え抜かれたライブの構成であった。

楽しさの源泉

メンバーの楽しさがフロアに伝染し、フロアの空気が盛り上がれば、メンバーもさらに楽しくなるという、ライブならではの好循環が生み出されていた。

ステージが生み出す楽しさには、二つの要因があったように思われる。第一に、新メンバー2人の成長により、それぞれが自分のパフォーマンスに集中できるようになったこと。その結果、パフォーマンスに余裕が生まれ、アドリブを行う余地が生まれた。その中で、川瀬あやめは、ダンスのフォーメーションで向かい合ったメンバーを笑わそうとするし、茜空は毎回異なる動きでメンバーを翻弄する。アドリブを仕掛けられたメンバーも、時に笑い、時に反撃して、ステージ上の楽しさを増幅していく。こうして、ステージの至るところで楽しい出来事が起こり、それを目撃したフロアのボルテージが上がっていくのである。

もう一つは、演出上の意図である。自分たちでお立ち台を設置するなど、ステージに手作り感を加えることで、秘密基地めいた空間に変貌させた。その結果、やや小ぢんまりとした親密な空間が創出され、ステージが楽しく遊ぶ場所となった。また、オープニングSEから「MORE×3」の流れも、楽しさを追求していく意図をはっきりと打ち出していた。

2021年に重力と格闘したukkaが、新メンバーという新しい翼を得て楽しく飛び立つ、そんなライブであった。

膨らむ未来への期待

重力から自由になったことを示したukkaを見て、未来がますます楽しみになったことは言うまでもない。ライブハウスで最強のukkaを披露した。ホールでのukkaはどうなるのか、アリーナでのukkaはどうなるのか。今回は小さく親密な空間を作り出した。では、スケール感が求められる大きなステージではどうなるのか。

結城りなの力強い歌声はどのように響くのか。葵るりの魂を振り絞るような絶唱は、どこまで届くのか。

パワーで押し切るだけではなく、柔らかな歌声で会場を包み込むようになった村星りじゅの歌は、どこまで広がっていくのか。

飛躍的な成長を遂げる芹澤もあは、大きなステージも軽々と乗り越えていくのか。歌声で圧倒する川瀬あやめの快進撃はどこまでも続くのか。

何かを証明する必要がなくなり、自分の表現をとことん追求する自由を得た茜空は、どこまで突き進んでいくのか。

ポジションを激しく入れ替わりながら作り上げていく、集団群舞のようなukkaのダンスは、大きな会場でどのように見えるのか。

重力から解放されて、高く遠くへと飛翔していくukkaの未来が楽しみで仕方ない。